京都大学 エネルギー理工学研究所ヘリオトロンJ プロジェクト

ご挨拶

Heliotron J(ヘリオトロンJ)装置は、京大グループから独自に創案された「ヘリカル軸ヘリオトロン配位」の実験的最適化を目指して設計・製作された立体磁気軸(ヘリカル磁気軸)を持つヘリカル系プラズマ実験装置です。ヘリカル軸ヘリオトロン配位は準最適化の手法の一つである準等磁場配位概念を取り入れることで、従来のヘリカル・ヘリオトロン配位では容易に両立できなかった良好な粒子閉じ込めとMHD安定性を両立させることを目指しています。この先進磁場配位の有効性をプラズマ実験を通じて調べるためには、磁場分布制御の自由度が大きいことが必要不可欠です。このため、Heliotron J装置では、各磁場コイルに独立した電源を持たせ、磁場分布制御の大きな自由度を確保しています。

研究所附属エネルギー複合機構研究センターの基幹装置研究、核融合科学研究所との双方型共同研究による全国共同利用・共同研究、さらには、核融合科学研究所国際共同研究拠点ネットワーク活動の一環としての研究を展開し、(1)トーラスプラズマ閉じ込めの総合的理解と、その学術的な普遍化への寄与(萌芽研究・要素研究)、(2)立体磁気軸ヘリカル系の配位の新規性が生み出す新しい物理の探究、特に、閉じ込め改善と高ベータ化、高エネルギー粒子閉じ込め、ブートストラップ電流制御、ダイバータ基礎研究など、無電流プラズマ閉じ込めの改善に向けた中・小型装置の展開、(3)未だ確立されていない先進ヘリカル炉の実現に求められる定常・高ベータ・コンパクトプラズマの生成・維持のための磁場分布制御の新手法の開拓、等の研究を推し進めています。

双方向型共同研究は、核融合科学研究所(NIFS)との間で双方向性の共同研究を進めるために平成16年度にNIFSに設けられた制度です。我が国の大学全体が核融合プラズマ研究を推進する上での課題をNIFSが取りまとめ、核融合プラズマ研究における重要な学術的課題の解決へ向け、その特徴を生かした重要課題を分担しています。双方向型共同研究が開始された第1期中期計画期間(平成16-21年度)では、主として閉じ込め装置の基本的性能の確認を進めました。特に、将来の核融合炉心プラズマに必要とされる要素還元研究の1つとして、磁場分布制御技術を用いた先導的なプラズマ輸送・安定性改善の研究を進めてきました。これにより、(1)閉じ込めに対するバンピー磁場成分制御の効果、特にバルク電子・イオンの輸送と閉じ込め改善及び高エネルギー粒子閉じ込めについて、(2)MHD平衡・安定性における磁場配位効果、特にMHD不安定性発現領域の実験的同定及びMHD揺動による高エネルギー粒子損失について、(3)バンピー磁場によるプラズマ電流制御・電流駆動の効果、特にブートストラップ電流の配位効果及び電子サイクロトロン電流駆動(ECCD)の特性評価について、(4)ダイバータ基礎研究、特に周辺磁場構造の実験的挙動について、(5)ヘリカル軸ヘリオトロンの最適化に関する物理設計について、着実な研究成果を積み上げてきました。

第2期中期計画期間(平成22-27年)では、ヘリオトロンJ装置において、プラズマの分布制御を含む新たな視点に立脚し、磁場配位によるプラズマ構造形成・不安定制御の研究及び閉じ込め磁場最適化の研究を推進し、核融合科学研究所のLHDの高性能化及び環状プラズマの総合的理解に貢献するとともに、定常環状プラズマ型核融合炉の実現をめざす理学・工学の体系化に寄与することを目指しました。また、この計画を効率的・効果的に達成するため、局所プラズマ計測器の整備が精力的に進められました。同中期計画期間における双方向型共同研究の新たな視点として、(1)先進ヘリカル配位の学術研究、特に立体磁気軸ヘリカル系の異常輸送の解明や輸送障壁の成立条件の解明、(2)プラズマ性能の向上、特に閉じ込め改善と高ベータ化、(3)核融合炉への展開、特に数値試験炉への寄与及び国際共同研究への寄与と、ヘリオトロンJ装置の実験データ基盤の整備・拡充に注力してきました。また平成23年度からは、双方向型共同研究全体を活性化し、核融合の早期実現・高性能化に効果的に貢献するため、核融合研を含む参画機関間の連携協力の強化をもとに、ヘリオトロンJにおいても、定常ヘリカル型原型炉に向けた「ECH/EBW加熱・電流駆動の研究」及び「境界プラズマ制御の研究」を課題とするセンター間連携研究にも、独自の視点から取り組んでいます。

平成28年度から始まった第3期中期計画期間では、これまでの実験的研究により確認されつつあるヘリカル軸ヘリオトロン配位の基本的性能を如何に高性能化していくか、に重点を置き、分担課題として「磁場分布制御を活用したプラズマ構造形成制御とプラズマ輸送改善」を設定しました。特に、第2中期期間で整備された局所プラズマ計測器、及び、プラズマ分布制御技術の高度化を図り、質の高い実験データの拡充・蓄積を行いつつあります。これにより、ヘリカル系磁場閉じ込めの高性能化及び環状プラズマの総合的理解に貢献するとともに、定常環状プラズマ型核融合炉の実現をめざす理学・工学の体系化に寄与することを目指しています。

ヘリオトロンJ装置では、これまでに低衝突領域での電子熱輸送障壁(中心電子温度:3 keV程度)、H-modeなどの良好なエネルギー閉じ込め(ISS95則の1.5-2倍)、高強度ガスパフやペレット入射等の先進粒子補給制御法による高密度プラズマの生成・維持(電子密度:1×1020 m-3程度)、高エネルギー粒子励起MHD不安定性の抑制など、核融合プラズマ閉じ込め装置としてのポテンシャルの高さが実証されつつあります。

令和元年度からは、JSPS研究拠点形成事業「磁場の多様性が拓く超高温プラズマダイナミクスと構造形成の国際研究拠点形成」、”PLADyS” (Advanced Core-to-Core Network for High-Temperature Plasma Dynamics and Structure Formation Based on Magnetic Field Diversity)(令和元年度-5年度)の拠点機関として、米国・ウィスコンシン大学マディソン校、ドイツ・マックスプランク研究所、中国・西南交通大学との国際共同研究を核融合科学研究所、東京大学、九州大学とともに進めています。

これまでのHeliotron Jプロジェクト研究へのご支援・ご協力に感謝しますとともに、次の段階としての新たな研究展開に向け、温かいご指導・ご鞭撻をお願い申し上げます。

(令和元年7月1日)

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